吉本たいまつ『おたくの起源』

おたくの起源 (NTT出版ライブラリーレゾナント051)

おたくの起源 (NTT出版ライブラリーレゾナント051)

なんか私の周囲ではあんまり話題になっていないような気がするのですが……これは将来基本文献の一つになりそうな気がします。「おたくの起源」そのものよりも、おたくてきな文化について、すごく網羅的に、しかも非常に「さらっと」書かれている本。

「さらっと」というのが肝要で、これはつまり、特定の立場に立たず(ある種の趣味趣向の擁護/排斥等に偏らず)、細部にあまり深入りせず、扱う範囲を広げている(SFからマンガ、アニメ、特撮へ。ゲーム系は時期的な制約上最終章のみ)。啓蒙でもなければ共感を求めるわけでもなく、ただひたすら概観を求めるところが、基本文献の素養を感じさせます(記述の正しさ・的確さは私はまったく判断できないんで、そこでつまづいてしまっているのなら葬られてしまうかもしれません)。

とはいえなんとなく全体的なトーンがSFに偏り気味な気も。全4章+序章と終章という構成のうち、第1章と第4章はSFの章なので。おたくの原初としてSFを配置し、さらにおたくがおたくになったきっかけの象徴としてDAICON IIIとDAICON IVを持って来ている、というかなりSF寄り史観。まあ私もこの辺りはSFに偏っているので、違和感はないんですけど、SFの嫌いなおたくな人には受け入れがたいかも。それでも、批判する為にも踏まえておきたい本になりそうな気がします。