Kindle MatchBookが日本には来ない(と思う)理由とその回避策

3行まとめ

MatchBookが来ない理由: 景表法に引っかかるから。

その回避策: 電子書籍定価が無料、もしくは紙書籍の20%以下(1,000円以下の書籍なら200円以下)になるか、あるいは電子書籍を紙書籍のおまけにするのが社会的な慣習になれば回避可能。
もちろん、そんな風に電子書籍ダンピングみたいなことを始めて幸せになれるかどうかはまた別の話。

※法律の専門家ではないので誤りがあるかもしれません。話半分に読んでください。

Kindle MatchBookについておさらい

URL長い。

というわけで、みなさんご存知Kindle MatchBookは海外では既にスタートしているようです。

amazon囲い込みすごいなあ、と思ってしまいますね。

Kindle MatchBookと景表法

で、気になるのは日本でのサービスがいつ始まるか、なのですが……たぶん日本ではこのままのMatchBookは開始できないんじゃないかと思います。

それはなぜか。日本には「不当景品類及び不当表示防止法」、通称「景品表示法」(または「景表法」)というものがあるからです。

MatchBookは書籍を購入した人に電子書籍を提供するサービスです。これは言い換えれば、電子書籍が「景品」となるわけです。なので、景品表示法に則って提供しなければなりません。

では、景品表示法ではどのような規定がなされているでしょうか。消費者庁による「よくわかる景品表示法と公正競争規約(平成23年2月)」で分かりやすく書かれています。

この法律では、「景品類」というものが、以下のように定義されています。

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(「よくわかる景品表示法と公正競争規約(平成23年2月)」より)

そして、景品類の中でも「総付景品」というものがあります。

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(「よくわかる景品表示法と公正競争規約(平成23年2月)」より)

「商品の購入者全員にプレゼント」というのは、まさしくMatchBookのパターンです。つまり、Kindle MatchBookは総付景品という景品類に該当しそうですね。

さて、先ほどの図の中にも書かれていた通り、総付景品には以下のような条件が決められています。

  • 取引価額が1,000円未満の場合: 200円まで
  • 取引価額が1,000円以上の場合: 取引価額の10分の2まで

つまり、紙の書籍の2割までの価格の商品であれば景品として提供できるわけです。

ところが、現状の電子書籍は、紙書籍の20%以下どころではなく、むしろ20%引きの80%程度の価格で提供されている例が多そうです。安くしても半額程度が多く、それよりも安いケースはまだまだ少ないようです。とてもではないですが、上の条件を満たすことはなさそうです。

もっとも紙書籍が1,000円かどうかで話が変わってきますが、まあでもKindle MatchBookのしくみから言って紙書籍の価格によって場合分けをするようなルールを導入するのは難しそうですし、あくまで限定的なサービスになるため、本家のそれとはだいぶ異なるものになるかと思います。

そのため、Kindle MatchBookが日本で展開されることはしばらくはないのかな、というのが私の予想です。


とはいえ、これが実現されるロジックもないわけではないのです。

MatchBook導入の回避策をもうちょっと深堀りする

実は、「景品類等の指定の告示の運用基準について」では、運用上の細かい話が書かれています。

(4) 正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる経済上の利益の提供は,「取引に附随」する提供に当たらない(例 宝くじの当せん金,パチンコの景品,喫茶店のコーヒーに添えられる砂糖・クリーム)。


(5) ある取引において二つ以上の商品又は役務が提供される場合であっても,次のアからウまでのいずれかに該当するときは,原則として,「取引に附随」する提供に当たらない。ただし,懸賞により提供する場合(例 「○○が当たる」)及び取引の相手方に景品類であると認識されるような仕方で提供するような場合(例 「○○プレゼント」,「××を買えば○○が付いてくる」,「○○無料」)は,「取引に附随」する提供に当たる。


ア 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売していることが明らかな場合(例 「ハンバーガーとドリンクをセットで○○円」,「ゴルフのクラブ,バッグ等の用品一式で○○円」,美容院の「カット(シャンプー,ブロー付き)○○円」,しょう油とサラダ油の詰め合わせ)


イ 商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている場合(例 乗用車とスペアタイヤ)


ウ 商品又は役務が二つ以上組み合わされたことにより独自の機能,効用を持つ一つの商品又は役務になっている場合(例 玩菓,パック旅行)

この辺りの記述に基づけば、紙書籍を買えば電子書籍がついてくるのが「正常な商慣習に照らして取引の本来の内容をなすと認められる」ようになるとか、「商品又は役務を二つ以上組み合わせて販売することが商慣習となっている」ようになってくれば、Kindle MatchBookも認められるようになるんじゃないかなあと思います。

要するに、客観的な基準を持ってきて、それに合致するかどうかというよりも、慣習的に認められるかどうか、という曖昧な基準で運用されるわけですね。それであれば、「紙を買えば電子が無料でついてくるのも当たり前」というのが一般的になっていれば、もちろんamazonだって堂々とそういったサービスを提供できるようになるわけです。

実際、文教堂が紙雑誌を購入すると電子版が無料でついてくる、というサービスを始める(もう始まってる?)そうですし。


……もっとも、電子書籍はこれはこれで商品として売り物になっているわけですし、ただでさえ紙の売上が減少傾向にある現在、電子のコストを紙の値段に含めるような形になるのも難しい&電子書籍化のコストを捨てるのも無視できるほど小さくなることも早々なさそうな気がするので、何というか、いかんともしがたいのかなあというのが正直なところです。はい。