竹岡葉月の小説は「ハンドルが壊れている」のだと思う。
メモ。
まつもと ゆきひろさんは、ハッカーには「ブレーキが壊れている」人が多い、といったような表現を良くしている。それに例えていうなら、竹岡葉月の小説は、「ハンドルが壊れている」のだと思う。
ハンドルが壊れているというのは、要するにとにかくまっすぐ進むしかない、ということだ。いちおうブレーキはあるので、いったん減速することもできなくはない。のだけれど、結局いつかはアクセルを踏み込んで前進するしかない。なので、ブレーキがあったとしてもそれはあくまで一時的なもので、最後はアクセルを踏み込むしかない。
竹岡葉月の小説に出てくるキャラクター達は、みんなそんな人間ばかりだ。
夢は叶えようと努力するしかない。人はみんな信じるしかない。チャンスやピンチが来たら逃げるわけにはいかない。言い訳なんてどうでもよくて、とにかく、とにかく、できることは前に進むこと、それしかない。
選択肢なんてありえない。迷うことだってないわけじゃないけど、結局最後に選べるのはたった一つ。「GO!」 だけだ。
コバルトで書いていた頃もそうだったけど、『マイフェアSISTER』『SH@PPLE』『オトナリサンライク』、どれもこれも、変化球なんて使わない。使えない、のかもしれないけれど、それはたいした違いじゃない。とにかく直球ストレート。合間に挟まる軽口や小ネタは、そんなストレートさの照れ隠しなんじゃないか、という気もしないではない。
多少左右に曲がれるようになった感じもあったとしても、それは体重の掛け方を会得したくらいで、別にハンドルが使えるようになったわけじゃない。
それでも、ちゃんと面白いお話になるのが、竹岡葉月のよいところだ。
それはたぶん、竹岡葉月のハンドルの壊れ具合は本物だからだ。シャレやネタや受け狙いや技巧のみでやっているのではない。本気で全力で、アクセルを踏み込むことの正しさを確信しているか、あるいはハンドルで逃げることを拒絶しているか。そしてそこで紡がれていく物語の正しさを、あるいはたとえそれが拙かったとしても、それは単に技巧の問題でしかなく、本質としてはそれ以外の紡ぎ方などありえないことを知っている。知っていると確信している。それが彼女の作品の強さなのだと思う。
いつか竹岡葉月がブレイクするといいな、と思う。葉月さんのことだ、もしもブレイクしたとしても、きっとハンドルは壊れっぱなしのはずだから。
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