『初めてのRuby』についてひとこと

トークイベント前に読んだ印象を書いておきます。

『初めてのRuby』を読んで一番感心した点は、コードの説明をしないこと。Rubyが初めて、というひとに対し、Rubyの構文の説明もせずにコードを見せ、そのまま放置して先に進む、というスタイルは意表をつかれた。これは私には書けなかったな、と思った。

『初めてのRuby』は、おそらく基本的には「50000フィート上空から眺めたRuby」、なのだろう。Rubyの全体像を、ある程度「わかっているひと」向けに説明するには、それくらいの高度からの展望を一瞥させるのがいい。

もちろん、これはいわゆる普通の初心者には厳しいのではないか、と思う。きっととりこぼしてしまうところが少なからずある、と思う。ちょっともったいない。ので、もう少していねいに説明を書くべきではないかと思ってしまう。それによってスタイリッシュさが多少失われてしまうかもしれないが、読み手の得られるものを損ねないと得られないスタイルなど単なる書き手の傲慢でしかない。

しかし、著者にはおそらく二つ確信があるのだと思う。右も左も分からない初心者ですらも、50000フィート上空から何かしらの印象を与えることが、Rubyにはできるのだ、ということ。そして、これくらいのことが理解できるようになってはじめて楽しめるRubyの魅力があるのだ、ということ。

ある種のプログラミング言語にはさまざまな段階で得られるさまざまな魅力を持っている。使い始めたときにも分かる魅力もあれば、使い慣れた頃に初めて気づく魅力もある。その全体を、多少の細部は措いておいても俯瞰できる場所、それを目論んだのが『初めてのRuby』なのだと思う。

初めて読んだときにはよくわからないところがあったとしても、それはRubyやそれ以外のプログラミング言語を使い込んでいくにつれ、自然に分かってくるようになるだろう。そうなったときに、著者はこう言ってくれるにちがいない。Rubyの世界にようこそ、と。

初めてのRuby

初めてのRuby