東浩紀の新井素子論(『ミステリーズ!』所収)が本当に素晴らしい件

について(谷山浩子創業35周年記念コンサートが終わった)あとで書く。

終わったので書きます。

東さんのセカイ系に関する素子さんの評価については、SFセミナーでビール片手に語っていたのを聞いたことがあったし、そのときに自分が新井素子のファンだったというのも語っていたので、ある程度は知ってました。それもあって、それなりに興味深いものになるだろうというのは予想していたものの、評価が近くても遠くても、何かしら反発したくなるところもありそうで、読むまでは期待半分不安半分といったところでした。

ところが、実際に読んでみると。

すばらしい。すばらしい。すばらしい、すばらしい、すばらしい。文章を読んでこんなにさわやかに感じたのは久しぶりに思えるくらい、爽快な読後感でした。

まずなによりも、「おまえはどこのおれですか?」と言いたくなるくらい、論旨が完全に理解可能・了解可能で、まったくぶれなく完璧に同意できることです。すごい、こんな文章読めるとは思ってなかったよ。

いや、もちろんそれは言い過ぎで、少なくとも私はラカンとかフロイトとかの精神分析用語がよく分からない、というより精神分析的な物言いが致命的に納得できない体質なようなので(まだ社会学的な物言いの方がしっくりくる)、連載の主旨についての記述すらついていけないところがあります。ですが、根源の部分ではまったくもって完全に共感を覚えてしまいました。あまりに共感しすぎて、一文一文追いかけていっても、一文読んでは「そうそう、その通りだよね」、次の一文を読んでは「そうそうそう、その通りだよね」、と深くうなづきながら、頭から尻尾まですっかり読み終えてしまうことができたのでした。こんな楽しすぎる読書体験があるとは。

もっとも、それはあまり深く素子さんの作品に踏み込んでいないせい、という側面もあるかもしれません。あくまで概論、しかもそのうち「セカイ系」との関わりにのみフォーカスをあてているため、あるいは大きく議論になるかもしれないところまで突っ込んでは語られていません。しかし、素子さんの作品にとって、社会の欠落と、それを埋めるかのごとき身の回りの狭い世界=セカイと、逆に「人類」「生命」などの大きな世界=セカイの強調については、必ず避けては通れない論点であることも明らかでしょう。また、著者が最初に素子さんについて触れるにあたり、まずはこのような概論(さらに著者の得意な論点)から迫るのも深く納得できます。さらにさらに、

「以上のような一般的な主張を「論証」するとすれば、それなりに本格的な作家論が必要になるのは言うまでもない。前述のように、新井はぼくにとっては特別の作家であり、したがって個人的にはその誘惑に駆られないでもない。」

とまで書かれた日には、いやあまったくその通りだよねうんうんうん、としか言いようがありません。

第3回も、心から期待して待ちたいと思います。第1回の前号も買わないと。

ミステリーズ! vol.27

ミステリーズ! vol.27