今、新井素子が熱い(のかも)
ひそかに空前の新井素子ブームの様相を呈しているような気がする今日このごろ、素子さんファンのみなさまはいかがおすごしでしょうか。
というわけで、最近出た本の中から素子さんネタを。
日本SF全集・総解説
- 作者: 日下三蔵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
日下さん渾身の力作。架空の全集の解説本、というマニア向けのSFマガジン連載企画がなんと本になりました。びっくりです。
こちらの方は雑誌連載時よりも加筆されてます。SFマガジンでは初心者向けの説明は少なめでしたが、一般の人が手に取る単行本ではもう少し手加減しないと、ということでしょう。おかげで日本SFのガイドブックとしても非常に便利な本となっています。
さて素子さんですが、第3期の最初に位置づけられています。日下さんはSFな人の中でも素子さんを高く評価していると思うのですが(というか、素子さんのSF界の評価って正直微妙なんじゃないでしょうか。決して悪いわけじゃないんだけど、どうにも評価しづらそうな雰囲気をたまに感じます)、それはさておいてもこの待遇はちょっとうれしいですね。
しかしそんなことよりもすごいのは190ページ。ここで簡単に素子さんの作品分析を行っているのですが、これが短いながらも実にするどくて面白い。詳細は読んでのおたのしみということで書きませんが、素子さんを評価するのに山風と連城三紀彦を持ってくるのは世界中で日下さんしかいないんじゃないでしょうか。新井素子ファンならここを読むためだけでも購入しておく価値はあるでしょう。強くお勧めします。いや、素子さんファンじゃなくてももちろんお勧めですけど。
星新一 空想工房へようこそ
- 作者: 最相葉月
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 単行本
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
「とんぼの本」というレーベルがあるのですね。はじめて知りました。
http://www.shinchosha.co.jp/tonbo/
没後十年のせいか、最近再評価が進んでいるように見える星新一関連本の一冊。貴重な写真なども公開されていて、それはそれで興味深い本になっています。
素子さんはといえば、これは(談)になってました。つまり素子さんが書かれた文章が収録されているわけではありません。ちょっと残念かも。そうは言っても、ローランサンの絵のエピソードとかは今まであまり書かれたことはなかったと思うので、そういう意味では楽しめました。
それにしても、素子さんは「星新一の良い思い出の語り部」としてこれからも重宝されるポジションにあるのだなあ、と思いました。もちろん、星新一を恩人と仰ぐ素子さんとしては本望なのでしょうけど。これをきっかけに素子さんの本を読んでくれる人が増えるといいですね。
グリーン・レクイエム/緑幻想
- 作者: 新井素子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/11
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 38回
- この商品を含むブログ (39件) を見る
『グリーン・レクイエム』が文庫本では入手困難になって久しいですが、なんと『緑幻想』と合わせて一巻本となって復活しました。意外な展開ですね。
正直、『緑幻想』はあんまり評価してないんですが、それでも『グリーン・レクイエム』を完結させた、という役割だけは評価しておきたいので、その意味でもあわせて読めるのはよいことではないでしょうか。
というか、『グリーン・レクイエム』が容易に入手できるようになったことがうれしいです。この作品は、初期の素子さんの作品のなかでも、短いセンテンスを重ねる一人称や思い切った場面転換などが楽しめる上、SF的発想と人物の動きとストーリー展開がきれいに決まっているという、星雲賞は伊達ではない一作に仕上がっています。素晴らしいですね。
しかもしかも、東京創元社のページによれば、『ひとめあなたに……』も復刊する予定だそうです。なんと。
『ひとめ……』は新井素子の最高傑作というより、私にとってはオールジャンル中のオールタイムベストとも言える作品です。素晴らしい。長生きはするものですね。今から待ち遠しいです。
ちいさなおはなし
- 作者: 新井素子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/10/26
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
そして素子さんブームの本命がこれ。なんと素子さんの最新刊がショートショート集(というよりは短い短編集といったほうがいいかも)ですよ!
これについて書き出すと長くなるので後にしますが(というか、正直にいうともったいなくて少しずつしか読んでないのでまだ読了していないのですが)、新井素子の現在形として、こういう形で作品を書くとは思ってもいなかったので驚きました。しかし、こうやって本で読んでみると納得というか、ある種の必然を感じます。
というのも、正直、『チグリスとユーフラテス』や『ハッピー・バースディ』は悪い意味で冗長なところがあり、実際あんまりよろしくない評判も聞いていたのです。まあ、確かに冗長さは否定できません。でもでも、これが短編となると、多少饒舌な語りの調子も気にならない程度におさまってしまうのです。あら不思議。なので、上記作品が苦手な人にも十分お勧めできます。よかったよかった。いやまあ駄目な人は駄目でしょうけど。星新一の初期ショートショートのような切れ味を期待されても困りますが、素子さん流のショートショートということで。