『百億の魔女語り』は竹岡葉月の集大成かつ最高傑作の予感がする

と、希望的観測というか単なる願望というか、とにかく期待を込めて言い切ってみます。

集大成、というのは、もう読んでるそばから過去の葉月さんの作品を思い浮かべてしまって感慨深いのですよ。そもそも「男なのに魔女」という設定からしてコバルト時代の代表作『東方ウィッチクラフト』を思い出さずにいられないし、世界設定の複雑さっぷりは『フラクタル・チャイルド』やら『マイフェアSISTER』『オトナリサンライク』やらを思い出したり出さなかったり。

こう書くと、特に後ろの方から、何やら不吉な空気が漂うように感じるかもしれません。何せ『フラクタルチャイルド』はシリーズ途中で続きが出なかったし、『マイフェアSISTER』は2巻まで出たものの、『オトナリサンライク』は1巻で終了だし。

実際、読んでて最初の方、わりと設定が複雑な様相を示し始めたところで、あきらめずに何度もチャレンジしてくれる葉月さんのスタンスにはうれしいものを感じていたけど、手放しで歓迎してしまっていいかどうか、ちょっと心配な気持ちもないわけではありませんでした。


でも、読み終わってみると。

……面白かった! うん、これはよい作品になりそう。すごく期待が持てる感じです。

やっぱり『SH@PPLE』というのはすごく大きな存在だったのだなあと、今さらながらに思います。作品そのものも去ることながら、筆の走らせっぷりというか、話の転がし方というか、そういった、どちらかというとそれまでの葉月さんの弱かったところが、嘘のようになくなってるように感じます。それは『SH@PPLE』のシリーズを書いている時に身についた技法的なものなのか、あるいは大団円まで見事に書き切ったことからくる自信的なおのかはわかりません。が、すごく大きなものを、あのシリーズによって葉月さんが手にしたのは間違いないのかも。もちろん、作品的にも、たとえばキャラの絡み具合なんかは『SH@PPLE』のそれを感じさせてくれてうれしさ倍増なわけです。

とはいえ、これが一朝一夕のものではないことも明らかなわけで。あとがきにさりげなく書かれている「長年ためこんでいた地面やら神様やら魔法やらの設定を持ち出して」、というところを読んでもしみじみとしてしまいます。そもそも設定の作り込みはデビュー作『僕らに降る雨』からして頑張っていたわけで、長年の努力の賜物、と言ってもいいんじゃないかと。いやほんとに。

で、そうだとすると、この作品こそが、葉月さんが満を持して放つ、集大成かつ最高傑作になっても何ら不思議ではない、と思ったりするわけです。


まだ第一巻が始まったところながら、綺麗に決まるどんでん返しあり、叙述トリックみたいな仕掛けもあり、今後の伏線っぽいものもあり、明かされてない謎もあり(そもそもXXXXからして意味が分からないすごさだ)、大きく出たな竹岡葉月、と頼もしく感じながら、続刊に期待したいと思います。